0002 現行の「上皇后」呼称について
所謂退位特例法の第四条「上皇の后は、上皇后とする。」により、上皇后なる名が新たに創出された。
甚だ遺憾に思う。同条第二項は「上皇后に関しては、皇室典範の定める事項については、皇太后の例による。」とされている。
皇太后でいいじゃんか!
そう思った。
皇太后の意味は、
天皇の生母。後略(角川古語大辞典)
天皇の生母で、先帝の皇后。後略(日本国語大辞典)
先代の天皇の皇后。後略(百科事典マイペディア)
先代の天皇のきさき。天皇の母で、皇后であった人。後略(大辞林第三版)
先天皇の皇后で、天皇の母をいう。後略(日本大百科全書ニッポニカ)
などである。
そもそも令義解の公式令第卅六「平出条」には、
皇太后。皇太妃。皇太夫人同。〈謂天子母登后位者為皇太后。*1〉
とある。
皇太后とは、天皇の母、もしくは先代の天皇すなわち太上天皇の皇后なのである。
”天皇の母=今上天皇の生母、先代の天皇の皇后=上皇陛下の皇后”
辞書的説明や史料を見ても、上皇后陛下には「皇太后」という身位がぴったり当てはまることが分かる。
ではなぜ、「上皇后」となったのか?
それは、
①皇太后に「未亡人」のイメージが強いから
②戦後の政府官報の英訳が夫を亡くした皇后を指す語を用いてしまったから
だとされる。
しかし、未亡人のイメージは、永い皇室の歴史の中では最近のイメージではないか。新たな身位を創成して歴史に名を残そうなどと思ったのかもしれないが、もし、そう思っていたのであれば、斯様な族は日本に不必要である。そもそもたかだか数十年のイメージで壊していいものなのだろうか。皇室は、本来庶民の印象で事を変えられるものではないはずだ。
官報の記載「Empress Dowarger」は、改めて記述し訂正すればよいのではないか。上皇后の英訳「Empress Emerita」を皇太后に当てればよい。またこれに合わせて、太皇太后の英訳も「Grand Empress Emirita」と改めればよいだろう。
現行の皇室典範には規定がないから、改めて、
例えば、
「先の天皇の皇后を皇太后という。二代前の天皇の皇后を太皇太后という。」
のような条文を作ればよいだろう、ということを私は提案したい。
ちなみに「天皇の生母」を皇太后と規定してしまうと、現状を考えた時などに困ったことが想定される。今上陛下が譲位されるなどして秋篠宮殿下が「天皇」に御即位されるとき、「天皇」の生母は「上皇后」陛下となり、「皇后」陛下の身位の行き場が無くなってしまうから、そういったことが起こらないためにも、先代の天皇を皇太后として改めて規定すべきだ、ということである。
再び一系の継承でなくなる今だからこそ、しっかりと尊号についても規定すべきではないだろうか。
(1160文字)
(追伸)官報については調べられておらず、訂正することが難しいなどあるのかもしれない。しかし、それを乗り越えてでもする意義があると考えている。